WEB限定連載 今夜もまちづくり

第四夜
「太古の野生に還る夜 〜寿し金・門編〜」

心。明るい話題が少ない時代、マザー・テレサのごとく慈悲あふれる心に癒されたくて、海より、宇宙より、直江兼継より大きな愛で商店街を包み込む、愛称‘ビッグハート’本町筋商店街に吸い寄せられた。心とは愛、愛とは抱擁。抱擁といえば包み巻くこと。包み巻くのは海苔巻。ビッグハートな本町筋でもうすぐ創業70年を迎える「寿し金」では、褐色の肌(海苔)と白い肌(酢飯)が熱い抱擁を交わしている。

日が暮れても気温が下がらず、毛穴までビールモード全開で暖簾をくぐる。日が暮れても気温が下がらず、毛穴までビールモード全開で暖簾をくぐる。カウンターに腰掛け、熱燗を頼む。真夏に熱燗。それも、ぬる燗でなく、持てないほどの激熱燗。トクトクトクと猪口に注ぎ、クイッと喉に放り込む。舌、喉、食道、胃…。五臓六腑に、熱燗が沁みる。冷房の利いたカウンターで、いきなり熱燗から始める掟破り。2日間手間暇かけた椎茸の煮付のお通しがピッチを上げる。カラオケビデオの居酒屋シーンなら、美人女将が酌をして、サビの部分で客と何となくいい感じになるのだが、カウンターの向こうには道を極めた寿司職人が2人。同行者は丸坊主のM氏。色気を喰い気に切り替えた。

熱燗をやりながら刺身をつまみ、ようやくビールを注文。コップに注ぎ、一気にあおる。真夏の熱燗で泣きそうなほど狂おしくなってから、ギンギンに冷えたビールをゴクリ。夏の醍醐味である。

香ばしく焙られた海苔は風味高くパリッパリ。江戸前のように仕事が施された貝のにぎりを堪能した後は、名物の海苔巻。香ばしく焙られた海苔は風味高くパリッパリ。歯で楽しみ、舌で喜び、喉で舞う。マグロ&胡瓜の‘てっきゅう巻’など、巻き物は熱燗よりもビールが合う。そんな「寿し金」の世界唯一・超創作限定メニューは「ぼっかけチラシ寿司」。これが、9月27日開催「鉄板こなもん祭」新長田グルメラリーに、久々の復活!先着500名限定のラリー用紙をぜひゲットすべし。

店を出た。寿司屋でお腹一杯になる幸せをかみしめたのに、心に隙間風が吹き抜ける。なんだろう、この喪失感は…。思い当った。赤だしを忘れてた。寿司屋の赤だしはシメの大きな楽しみなのだが、後の祭り。吸い物だけで寿し屋の暖簾をくぐる勇気は、小物の私にはない。

大きな心の空白を汁モノで埋めたいが、寿司&熱燗のあっさり系の後にも関わらず、敢えて濃厚コテコテ系で攻めたい。本町筋を少し下り、協同病院の筋を右に曲がると、燃えるように紅い「門」の看板が見えた。「門」と言えば、数種類のスープが新長田の元気を底支えする、超人気焼肉店。お昼時は相席必至だ。

お腹一杯なので、焼肉を食べるスペースは胃に残されておらぬが、極上スープは啜りたい。昼のランチ時ならまだしも、夜のメインタイムにスープだけ注文する勇気が試される。普段なら小物ぶりを発揮し、満腹なのに焼肉を頼みすぎて撃沈するが、今回は力強い同行者も一緒。蛮勇を奮い、暖簾をくぐった。

タフなネゴシエーションを予測していたが、お店も閉店間際。スープぐらいなら…というオーラがママさんから全開。我々とお店の利害が一致したようだ。やれやれ、心から汗がでてきた。夜の8時半ごろに、焼肉屋で焼肉を頼まないというシュールな自分をほめてやりたく、同行氏と生ビールでガツンと乾杯。

間髪入れず、じっくり5時間以上ことこと煮込んだ湯気モウモウのスープが、舞台袖からムーンウォークで現れるマイケルのごとく登場。夏の疲れを吹き飛ばす4大キーワードは、

  1. 韓国系料理
  2. 汁モノ
  3. 濃厚とされる(気がする)。

これらを満たす究極のスープは、何といってもテールスープ。「門」では和訳して‘しっぽ汁’と名付けられた超人気メニューである。

‘しっぽ汁’と名付けられた超人気メニュー眩しい玉子の黄、パラっとした唐辛子の赤、ネギの鮮烈な緑、そしてボリュームたっぷりぶつ切りテールが、ゲームメーカーとして中央に君臨。一口すすると、体中に滋味が染み込む。濃厚だけど、しつこくない。スプーンでつつくとハラリと骨から外れるお肉も、艶めかしく、柔らかく、繊細で、肉のうまみが存分に味わえる。激烈にして淡麗。豪放かつ繊細。熱い、旨いの2進数が、脳に指令を送る。残り少なくなると、ニラキムチを投入。チゲ風のピリッとした味わいが発汗を促し、食べ終えた後の爽快感に直結する。最後はテールを手づかみで、骨に残った肉にしゃぶりつく。夢中にすすり、喰らい、我を忘れる。

イベントラッシュの夏。体力を貯え乗り切るには、ワイルドでナイーブ、ナイスすぎるネーミングの‘しっぽ汁’を啜り、スタミナびんびん、顔テラテラになり、疲れを100万光年彼方に蹴散らさねばならない。テールにかぶりつくと、尻尾を振りながら狩猟に励む白亜紀の恐竜、野生動物になった気分だ。太古の野生動物も現代のまちづくりも、アンテナの感度を高めて厳しい環境に鋭敏でなければならない。野生動物もまちづくり野郎も変わらないのだ。尻尾が後ろではなく、前についていることを除いては。

[09.08.19更新]

寿司金

兵庫県神戸市長田区腕塚町2-1-16
電話: 078-611-0141(611-おいしい)

焼肉 門

兵庫県神戸市長田区腕塚町3-4-1
電話:078-643-1889

 

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